「車庫入れのとき、何度も切り返すようになった」 「車にこすったような傷が増えている。本人は『覚えがない』と言う」 「返納の話をしたら、『まだ大丈夫だ』と不機嫌になってしまった」

——親の運転が心配でも、どう話せばいいかわからない、という家族は多くいます。車がないと買い物にも通院にも行けない地域では、運転をやめることは暮らし方そのものを変えることでもあります。だから親は簡単には首を縦に振りませんし、それは自然な反応です。

この記事では、警察庁と都道府県警察の案内をもとに、親の運転が心配になったとき、家族が確かめること・使える制度・話の進め方を整理しました。返納を「させる」ための説得術ではなく、親が自分で決めるための材料を家族がそろえる、という考え方でまとめています。

この記事でわかること

  • 返納の話をする前に、家族が確かめておきたいこと
  • 75歳以上の免許更新で受ける検査と、その結果の使い方
  • 返納のほかにある選択肢(サポカー限定免許など)
  • 話の切り出し方と、相談できる窓口
  • 返納の手続き、運転経歴証明書、返納後の移動手段

返納の話をする前に、家族は何を確かめればいい?

まず親の車に同乗して、運転の様子を自分の目で確かめます。あわせて、車を使っている用事(買い物・通院・趣味)を書き出し、返納したらどう困るかを家族が先に把握しておきます。

電話で「運転は大丈夫?」と聞いても、多くの親は「大丈夫」と答えます。帰省や訪問のときに、近所のスーパーまでの運転に同乗させてもらうと、ふだんの様子がわかります。家族が見ておけることの例は次のとおりです。

見ておけること具体的な様子
車の状態こすった傷やへこみが増えていないか。本人が傷の理由を覚えているか
駐車・車庫入れ以前より切り返しが増えていないか。枠から大きくはみ出していないか
交差点・信号一時停止や信号を見落としていないか。右折のタイミングに迷っていないか
道順通い慣れた道で迷うことがないか
本人の話「最近ヒヤッとした」「夜は見えにくい」など、本人から出てくる言葉

この表は、家族が話し合いの材料を集めるための目安で、運転できるかどうかを判定する基準ではありません。気になる様子がひとつあったからといって、すぐに返納が必要になるわけでもありません。

もうひとつ大切なのが、親の暮らしの中で車が何に使われているかを知っておくことです。週に何回、どこへ、何のために運転しているかを、親と一緒に書き出してみてください。返納の話がうまくいかない理由の多くは、「車がなくなったら、どうやって暮らすのか」に答えがないまま話を始めてしまうことにあります。

道に迷う、同じ話を繰り返すなど、もの忘れに関係しそうな変化が運転以外にも出ている場合は、運転の話より先に、かかりつけ医への相談を考えます。家族の向き合い方は親が認知症かもしれないと思ったらにまとめています。


75歳以上の免許更新では、どんな検査がある?

更新期間が満了する日に75歳以上の人は、認知機能検査を受けます。過去3年に一定の違反がある人は、運転技能検査も受けます。更新のお知らせが届いた時期は、家族が運転について話すきっかけにもなります。

警察庁と大阪府警の案内をもとに、高齢の運転者が更新時に受ける主な検査・講習を整理すると、次のようになります(警察庁 認知機能検査について、令和7年警察白書 第5章、大阪府警 70歳以上の免許更新制度)。

検査・講習対象内容と結果
認知機能検査更新期間が満了する日に75歳以上の人満了日の6か月前から受けられる。結果は「認知症のおそれがある」「認知症のおそれがない」のどちらか
運転技能検査75歳以上で普通自動車を運転できる免許を持ち、過去3年に信号無視・速度超過など11類型の違反をした人更新期間満了日前の6か月以内なら繰り返し受けられる。その期間に合格できないと更新できない
高齢者講習更新期間が満了する日に70歳以上の人普通自動車を運転できる免許の場合、座学・運転適性検査器材による指導・実車による指導の計2時間

認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判定されると、警察から連絡があり、医師の診断を受けることになります。認知症と診断された場合は、聴聞などの手続きを経て、免許の取消しまたは停止になります(警察庁の案内)。また、75歳以上の人が信号無視などの特定の違反をした場合は、更新の時期でなくても臨時の認知機能検査を受けます。

家族ができるのは、更新のお知らせがいつ届くかを把握し、検査や講習のあとに「どうだった?」と聞いてみることです。検査の結果は、家族が感じていた不安を、親と同じ材料で話すきっかけになります。「認知症のおそれがない」と判定された場合も、運転の不安がすべてなくなったわけではないので、次の章の選択肢を一緒に考えます。


返納のほかに、どんな選択肢がある?

運転を続けながら危険を減らす方法として、サポートカー限定条件付免許への切り替えや、運転する時間帯・道を家族で決める方法があります。返納は、その先にある選択肢のひとつです。

「返納するか、今のまま運転を続けるか」の二択で話すと、親は「今のまま」を選びがちです。間にある段階を示すと、話し合いが進みやすくなります。

親の運転が心配になったときに家族が進める4つの順番を示す図。1.同乗して運転の様子を確かめる(車の傷・駐車・交差点・道順)、2.更新時の検査や講習の結果を一緒に確かめる(75歳以上は認知機能検査)、3.選択肢を一緒に選ぶ(運転する場面を決める・サポカー限定免許・返納)、4.返納後の移動手段を先に用意する(家族の送迎・公共交通・介護保険の送迎など)。下段に、家族も相談できる窓口として都道府県警察の安全運転相談#8080と、地域包括支援センター・ケアマネジャー。

サポートカー限定条件付免許に切り替える

衝突被害軽減ブレーキ(対車両・対歩行者)と、ペダル踏み間違い時加速抑制装置が付いた普通自動車(サポートカー)だけを運転できる免許です(警察庁 サポートカー限定免許について)。

  • 対象は普通免許のみ。それより上の免許を持っている場合は、一部を取り消してから申請する
  • 後付けの安全装置は対象にならない。対象の車種は警察庁のサイトで確認できる
  • 免許の更新と一緒に申請できる。詳しい手続きは住所地を管轄する公安委員会(運転免許センターなど)に確認する

今乗っている車が対象でなければ、買い替えが必要になります。費用がかかる選択肢なので、親がこの先何年くらい運転を続けたいのかとあわせて話し合います。

運転する場面を家族で決める

制度ではありませんが、「夜は運転しない」「雨の日は乗らない」「高速道路は使わない」「通い慣れた近所のスーパーと病院だけにする」など、運転する場面を親と一緒に決める家庭もあります。いきなり運転をやめるのではなく、運転する場面を少しずつ減らしていくことで、車のない暮らしを試す期間にもなります。


どう切り出せば、親は話を聞いてくれる?

「危ないからやめて」と結論から迫るより、「心配している」という家族の気持ちと、返納後の暮らしの案をセットで伝えます。決めるのは親本人、という姿勢を崩さないことが大切です。

運転は、親にとって「自分のことは自分でできる」ことの象徴になっている場合があります。返納の話が、自分の衰えを指摘されたように聞こえると、反発が強くなります。言い方の例を並べます。

避けたい言い方言い換えの例
「もう歳なんだから、免許を返して」「この前乗せてもらったとき、交差点で少しヒヤッとした。私が心配で」
「事故を起こしたらどうするの」「車がなくても困らないように、買い物と病院の行き方を一緒に考えたい」
「今月中に返納して」「次の更新までに、どうするか一緒に決めよう」

話すタイミング

免許更新のお知らせが届いたとき、車検や車の買い替えの時期、本人が「最近ヒヤッとした」と口にしたときは、話を始めやすいタイミングです。帰省のときに話す場合は、到着してすぐではなく、同乗して様子を見たあとのほうが、具体的な話ができます。

兄弟姉妹で足並みをそろえる

兄弟姉妹の間で意見が分かれたまま親に話すと、親は「反対している子」の意見に寄りかかりがちです。誰が話すか、返納後の送迎を誰がどこまで担えるかを、先に兄弟姉妹で話しておきます。役割分担の決め方は、親の介護、兄弟の分担はどう決める?が参考になります。

家族だけで抱えない

家族が話しても受け入れてもらえないときは、家族以外の人に入ってもらう方法があります。

  • 都道府県警察の安全運転相談(#8080):運転に不安がある本人だけでなく、家族も相談できます。神奈川県警は、運転免許センターに作業療法士を配置し、運転の継続や免許について相談を受けていると案内しています(神奈川県警 安全運転相談)。受付時間は都道府県ごとに違います
  • かかりつけ医:持病や服薬の影響、もの忘れが気になる場合は、受診のときに運転のことも相談できます
  • ケアマネジャー・地域包括支援センター:介護サービスを使っている、または使うことを考えている場合は、返納後の移動手段も含めて相談できます

返納の手続きと、運転経歴証明書は?

返納は、運転免許センターや警察署で「申請による運転免許の取消し」を申請します。返納から5年以内なら、身分証明書として使える「運転経歴証明書」を申請できます。

島根県警と滋賀県警の案内では、手続きは次のとおりです(島根県警 運転免許証の自主返納、滋賀県警 運転経歴証明書の申請手続)。

  • 受付場所:運転免許センターや警察署(受け付ける警察署は都道府県によって違う)
  • 持ち物:返納する運転免許証(島根県警の案内)
  • 代理人の申請:島根県警は、本人のほかに代理人(身分証明書と委任状が必要)の申請を受け付けています。代理人になれる人や条件は都道府県ごとに違います
  • 一部だけの返納:「普通自動車はやめるが原付は続ける」といった、免許の一部だけの取消しもできます。ただし、一部だけを取り消した場合は、運転経歴証明書を申請できません

運転経歴証明書は、運転免許を受けていたことを証明するもので、金融機関などで本人確認書類として使えます。

項目内容
申請できる人自主返納から5年以内の人。更新せずに免許が失効してから5年以内の人も申請できる
手数料1,150円(マイナンバーカードに記録するマイナ経歴証明書は900円)
代理滋賀県警では、自主返納のあとの申請は代理人ができる(失効したあとの申請は代理不可)

返納した人に、バス・タクシーの割引や買い物の配達などの特典を用意している地域もあります。内容は地域によって違うため、親の住む都道府県警察や市区町村の案内で確かめます。


返納したあと、買い物や通院はどうする?

家族の送迎だけに頼らず、公共交通、地域の移動支援、宅配、介護保険サービスの送迎などを組み合わせます。返納の話をする前に、これらの手段を親と一緒に試しておくと安心です。

返納後の移動手段は、親の住む地域と、介護が必要な状態かどうかで変わります。

困ること使える手段の例
日々の買い物スーパーやドラッグストアの宅配、生協の宅配、移動販売、家族がまとめて買い出しに行く
通院公共交通、タクシー、病院の送迎バス(ある場合)、家族の送迎
要介護認定を受けている人の外出デイサービスの送迎(介護サービス費に含まれる)、訪問介護の通院等乗降介助、介護タクシー
地域の移動手段を知りたい市区町村のコミュニティバスや移動支援の情報は、市区町村の窓口や地域包括支援センターで確認する

要介護認定を受けている場合、デイサービスでは自宅との送迎が基本のサービスに含まれます(デイサービスの費用と選び方)。訪問介護の「通院等乗降介助」は、訪問介護員が運転する車への乗り降りや受診の手続きを手伝うサービスです(訪問介護(ホームヘルプ)のサービス内容)。どちらもケアプランに位置づけて利用するため、ケアマネジャーに相談します。まだ要介護認定を受けていない場合は、はじめての介護保険の申請から確認できます。

返納を決める前に、1〜2週間ほど車を使わずに暮らしてみると、どの用事で困るかが具体的にわかります。困った用事を一つずつ別の手段に置き換えてから返納すると、返納したあとの「こんなはずではなかった」を減らせます。離れて暮らしている場合の見守りの組み立て方は、一人っ子・遠距離介護のガイドも参考にしてください。


今日からできること

  1. 親の免許の有効期限を確かめる:次の更新がいつかを知っておくと、話を始める時期の目安になります
  2. 車を使っている用事を書き出す:買い物・通院・趣味など、週に何回どこへ行っているかを親と一緒にメモします
  3. 親の住む地域の移動手段を調べる:コミュニティバス、宅配、返納した人への特典を、市区町村や都道府県警察の案内で確認します

親の運転の話は、正解がひとつではなく、家族の中でも気持ちが揺れやすいテーマです。介護そっとねっとは、介護をしている家族どうしが経験や気持ちを匿名で分かち合う場です。「うちはこうやって話した」という経験談に触れたいときは、アプリをのぞいてみてください。なお、介護そっとねっとは運転の可否や免許の手続きを判断する窓口ではありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。免許の手続きや検査の内容、運転経歴証明書の取り扱い、返納した人への支援は、都道府県や市区町村によって異なる点があります。個別の判断は、親の住む都道府県の警察(運転免許センター)や市区町村の窓口にご確認ください。

参考情報(一次情報)

(確認日:2026年11月3日)

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