「親の介護が始まったけれど、仕事は辞められない」 「会社に介護のことを言い出しづらくて、一人で抱えている」 「気づいたら、もう辞めるしかないと思い詰めていた」
——働きながら介護を担うご家族にとって、「仕事を続けられるかどうか」は、暮らしを左右する大きな不安です。実際、「介護・看護」を理由に離職する人は、近年は年間およそ10万人にのぼるとされています(厚生労働省 介護休業制度特設サイト)。
そんな「介護離職」を防ぐために、2025年4月、育児・介護休業法が大きく改正されました。この記事では、改正で何が変わり、働きながら介護する家族が使える権利がどう広がったのかを、公式情報をもとにやさしく整理します。
この記事でわかること
- なぜ今「仕事と介護の両立支援」が強化されたのか
- 2025年4月の法改正で会社に義務づけられたこと
- 家族(働く人)の側から見て、何が使いやすくなったのか
- 制度を活用するために、まず何をすればいいか
- 迷ったときの相談先
なぜ今「両立支援」が強化されたのか
働きながら家族の介護を担う人は「ビジネスケアラー」と呼ばれ、年々増えています。総務省「就業構造基本調査(2022年)」では、介護をしながら働く人は約365万人。厚生労働省の資料でも、雇用労働者のうち55〜59歳では10人に1人以上が介護に直面しているとされています(厚生労働省 介護休業制度特設サイト)。
それにもかかわらず、「制度があることを知らなかった」「会社に言い出せなかった」という理由で、仕事を辞めてしまう人が後を絶ちません。介護離職は、本人の収入や将来の年金に影響するだけでなく、いざ介護が終わったあとの再就職も難しくなりがちです。
ポイント:介護は、いつ終わるか見通しが立ちにくいもの。だからこそ「辞める」前に、今の仕事を続けながら介護する方法を知っておくことが、家族の暮らしを守る第一歩になります。
こうした背景から、2025年4月の改正では、「制度を知らないまま辞めてしまう」事態を防ぐためのしくみが、会社側の義務として強化されました。
2025年4月の改正で、会社に義務づけられたこと
2025年4月1日から施行された改正では、介護に関して主に次の内容が会社(事業主)に義務づけられました(厚生労働省 法改正のポイント)。
1. 介護に直面した社員への「個別の周知・意向確認」
社員が「家族の介護に直面した」と会社に申し出たとき、会社は、介護休業や両立支援制度の内容、介護休業給付金のこと、申出先などを、その社員に個別に知らせ、利用の意向を確認しなければならないことになりました。面談(オンライン可)や書面、メールなどで行われます。
「制度はあるのに案内されない」という状況をなくすための改正です。介護に直面したら、遠慮せず会社に申し出てよい——そう考えてよいということです。
2. 40歳前後での「情報提供」
多くの人が親の介護に直面し始める年代を見すえ、社員が40歳になる前後の時期に、会社が介護休業などの制度情報を提供することも義務づけられました。まだ介護が始まっていなくても、早めに「使える制度」を知っておけるようにする狙いです。
3. 「雇用環境の整備」
会社は、介護と仕事の両立を支えるために、研修の実施・相談窓口の設置・利用事例の提供・利用促進の方針の周知のうち、いずれかの措置を必ず講じることになりました。つまり、どの会社にも何らかの相談の入り口があるはずだ、ということです。
家族(働く人)の側から見ると、何が使いやすくなった?
会社の義務が増えたということは、裏を返せば働く家族が使える権利・サポートが広がったということです。改正で特に身近になったポイントを見ていきましょう。
介護休暇が「勤続6ヶ月未満でも取れる」ように
これまでは、労使協定があれば「勤続6ヶ月未満の社員」を介護休暇の対象から外すことができました。2025年4月の改正でこのしくみが廃止され、働きはじめて間もない人でも介護休暇を取りやすくなりました(厚生労働省 法改正のポイント)。転職直後に親の介護が始まった、という場合にも心強い変更です。
なお、介護休暇そのものの基本は次のとおりです(厚生労働省 介護休暇)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得できる日数 | 対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日 |
| 取得単位 | 1日単位または時間単位 |
| 対象家族 | 配偶者(事実婚含む)・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・孫・配偶者の父母 |
| 使える場面 | 通院の付き添い、ケアマネジャーとの相談など短時間の用務にも |
時間単位で取れるので、「平日の午前だけ通院に付き添う」といった使い方ができます。
介護のための「テレワーク」が努力義務に
要介護状態の家族を介護する社員が、テレワーク(在宅勤務など)を選べるようにすることが、会社の努力義務になりました。義務ではなく「努力義務」ですが、「在宅でなら両立できる」という家族にとっては、相談する根拠が一つ増えたことになります。
制度の全体像(介護休業・介護休暇)
仕事と介護の両立に使える主な法定制度は、改正後も次のとおりです。
- 介護休業:要介護状態の家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。原則無給ですが、雇用保険から介護休業給付金(賃金の67%)が支給されます。
- 介護休暇:上記のとおり、年5日(2人以上で年10日)を1日・時間単位で。
それぞれの詳しい使い分けや、時間管理・心の余白の保ち方は、仕事と介護の両立:時間管理と心の余白を保つためにでも具体的に紹介しています。あわせて読むと、「制度をどう日々の生活に落とし込むか」までイメージしやすくなります。
制度を活用するために、まず何をすればいい?
権利が広がっても、「使う」と声を上げなければ始まりません。まず取り組みたいのは、次のステップです。
1. 会社の相談窓口・人事に「介護に直面した」と伝える
2025年の改正で、申し出れば会社は制度を個別に案内する義務があります。「言い出しづらい」と感じるかもしれませんが、伝えることが、制度を動かすスイッチです。何から相談すればいいか分からなければ、「介護で両立の相談をしたい」と一言伝えるだけでも構いません。
2. 介護の「窓口」を地域包括支援センターに
介護そのものの体制づくり(介護保険の申請、サービス選び)は、地域包括支援センターが入口です。仕事の調整と並行して、介護のプロに早めにつながっておくと、急な事態にも慌てずにすみます。はじめての介護保険の流れは、親の介護が始まったら──はじめての介護保険、申請から費用までやさしく解説で詳しく解説しています。
3. 「自分一人で抱え込まない」体制をつくる
仕事と介護の両立は、制度だけでは支えきれない部分もあります。家族での分担、心の余白の確保も同じくらい大切です。気持ちが追い詰められていると感じたら、介護がつらいと感じたら──介護疲れのサインと、心を守るセルフケアもあわせてご覧ください。
一人で「辞めるしかない」と決めてしまう前に
介護離職は、「制度を知らなかった」「相談できなかった」ことが引き金になりがちです。2025年の改正で、会社には家族に制度を届ける責任が、より明確になりました。使える権利は、確かに広がっています。
それでも、「うちの会社はちゃんと対応してくれるだろうか」「相談しても気まずくならないか」——そんな不安は、なかなか一人では晴らせないものです。
介護そっとねっとには、同じように働きながら親の介護に向き合っているご家族がたくさんいます。「会社にどう切り出した?」「在宅勤務に変えてもらえた」——そんな経験や悩みを、匿名でそっと分かち合える場所です。制度の手続きは会社や専門窓口に相談しつつ、気持ちの面では、一人で抱え込まずに仲間とつながってみてください。
まとめ
この記事の要点(再掲)
- 「介護・看護」を理由とする離職は年間およそ10万人。働きながら介護する家族は約365万人
- 2025年4月の育児・介護休業法改正で、会社には「介護に直面した社員への個別の周知・意向確認」「40歳前後での情報提供」「雇用環境の整備」が義務づけられた
- 介護休暇は勤続6ヶ月未満でも取りやすくなり、介護のためのテレワークも努力義務に。使える権利が広がった
- 介護休業(通算93日・3回分割・給付金67%)と介護休暇(年5日/2人以上で年10日)が両立の柱
- まずは会社の相談窓口に「介護に直面した」と伝え、地域包括支援センターにもつながること
仕事と介護の両立は、決して「気合い」で乗り切るものではありません。制度という土台と、周りに頼る勇気の両方があってこそ、続けられます。
「辞めるしかない」と思い詰める前に、まずは一度、会社と専門窓口に相談してみる。その小さな一歩が、あなたとご家族のこれからを支えてくれます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度の具体的な利用条件や手続きは、勤務先の就業規則や会社の窓口、ハローワーク、地域包括支援センターなどでご確認ください。
参考情報(一次情報)
本記事の編集方針・監修体制・訂正ポリシーは 編集方針ページ をご覧ください。
よくある質問
厚生労働省の介護休業制度特設サイトによると、「介護・看護」を理由に離職する人は近年は年間およそ10万人にのぼるとされています。総務省「就業構造基本調査(2022年)」では、介護をしながら働く人(ビジネスケアラー)は約365万人で、特に55〜59歳では雇用労働者の10人に1人以上が介護に直面しているとされています。
2025年4月1日から、介護離職を防ぐための措置が会社(事業主)に義務づけられました。主な内容は、介護に直面した社員への制度・介護休業給付金などの個別の周知と意向確認、40歳前後の時期での制度情報の提供、研修や相談窓口設置などの雇用環境整備(いずれか1つ以上)です。あわせて、介護休暇の取得要件が緩和され、介護のためのテレワーク導入が努力義務になりました。
これまでは労使協定があれば「勤続6ヶ月未満の社員」を介護休暇の対象から外すことができましたが、2025年4月の改正でこのしくみが廃止されました。そのため、働きはじめて間もない人や転職直後の人でも、介護休暇を取りやすくなりました。介護休暇は対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日まで、1日単位または時間単位で取得できます。
介護休業は、要介護状態の家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できる比較的まとまった休みで、雇用保険から介護休業給付金(賃金の67%)が支給されます。一方、介護休暇は年5日(対象家族2人以上で年10日)を1日単位または時間単位で取得できる短期の休みで、通院の付き添いやケアマネジャーとの相談など、短時間の用務に向いています。
厚生労働省によると、介護休暇の対象となる家族は、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母です。要介護状態(2週間以上にわたり常時介護が必要な状態)にある、これらの家族の介護や世話のために取得できます。
まずは勤務先の相談窓口や人事に「家族の介護に直面した」と伝えることが第一歩です。2025年の改正で、申し出があれば会社は制度を個別に案内する義務があります。あわせて、介護そのものの体制づくりは地域包括支援センターが入口になります。仕事の調整と並行して介護の専門窓口にも早めにつながっておくと、急な事態にも慌てずにすみます。
ご利用にあたっての免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的として介護そっとねっと編集部が作成したものです。介護保険や医療・心理に関わる個別のご判断については、 お住まいの市区町村の地域包括支援センター、主治医、担当ケアマネジャー、または厚生労働省の公式情報をご確認ください。記事は2026.6.30時点の情報に基づきます。
この記事を書いた人
介護そっとねっと編集部
編集部
関連記事

親のお金や契約を守る「成年後見制度」とは──家族のためのやさしい入門と2026年の大改正
「認知症の親の口座が下ろせない」「施設の契約に本人がサインできない」——介護で家族が直面する『お金と契約』の壁を支えるのが成年後見制度です。法定後見・任意後見の違いや費用、そして2026年に予定される約26年ぶりの大改正(後見・保佐・補助の一本化、終身制の廃止)まで、公式情報をもとにやさしく解説します。

高齢の親を夏の熱中症から守る──在宅介護でできる室内対策と新しい警戒アラートの使い方
「エアコンをつけてくれない」「水を飲んでくれない」——高齢の親の夏が心配なご家族へ。熱中症の死亡者の約8割は高齢者で、多くが屋内で発生します。室温28℃以下の管理、こまめな水分補給、2024年に新設された熱中症特別警戒アラートとクーリングシェルターの使い方まで、公式情報をもとにやさしく解説します。

親の「もしも」を一緒に考える──家族のための人生会議(ACP)のはじめ方
人生会議(ACP)を家族の側から無理なく始めるための具体的な手順をまとめました。厚労省ガイドラインの考え方と、今日からできる「最初の一言」例、認知症が進んでからの向き合い方まで。
介護そっとねっとアプリ大幅リニューアル:新しくなった機能とデザインのご紹介
介護そっとねっとアプリが大幅リニューアル。カード化されたフィード、感情タグでつながる共感、Web シェアリンクなど、新しくなった機能とデザインをご紹介します。
