「親の介護が始まったけれど、仕事も辞められない」「兄弟と分担しているが、自分の生活が回らない」——働きながら家族の介護を担うビジネスケアラーが日本で急増しています。

総務省「就業構造基本調査(2022年)」によると、介護をしながら働く人は約365万人。経済産業省の試算では、ビジネスケアラーの仕事と介護の両立困難による経済損失は2030年に約9兆円規模に達するとも言われています。

この記事を読むとわかること

  • 仕事と介護の両立に活用できる法定制度と、使いこなすための実務上のコツ
  • 時間管理と心の余白を保つ実践的な方法
  • 兄弟・親族での分担の進め方
  • 相談できる窓口と、退職を考える前に確認したいこと

ただし、法定制度は「存在は知っているが、実際には使えていない」という声も少なくありません。なぜ制度を知っていても使いづらいのか、その理由と対処法については後半でくわしく触れます。


仕事と介護の両立に使える法定制度とは?

育児・介護休業法には、仕事を続けながら家族の介護を担うための複数の制度が定められています。まとまった期間に使う「介護休業」と、単発の用事に使う「介護休暇」の2本柱で理解すると使い分けやすくなります。

介護休業(最大93日)

  • 対象: 要介護状態の家族1人につき通算93日まで、3回まで分割取得可能
  • 取得単位: 日単位
  • 賃金: 原則無給だが、雇用保険から 介護休業給付金(賃金の67%) が支給される
  • 手続き: 取得開始日の2週間前までに会社へ書面で申請

「介護に専念する1〜3ヶ月」が必要なときに使う制度です。93日を1回で使い切る必要はなく、たとえば「入院時の付き添いで2週間」「退院後の在宅体制づくりで1ヶ月」のように、状況に応じて3回まで分けて取得できます。

介護休暇(年5日)

  • 対象: 要介護状態の家族1人につき年5日(2人以上なら年10日)
  • 取得単位: 1日 or 半日 or 時間単位(2021年から拡充)
  • 賃金: 会社規定によるが、原則無給扱いも可
  • 用途: 通院付き添い、ケアマネとの打ち合わせ、書類対応

「ちょっと半日だけ抜けたい」というケアに使う制度です。

その他の制度

制度内容
短時間勤務1日6時間など、勤務時間短縮
時差出勤始業・終業時間をずらす
時間外労働の制限月24時間・年150時間以内に制限を請求できる
深夜業の制限22時〜5時の勤務を免除請求できる
テレワーク多くの企業で柔軟運用が進行

これらは法律で定められた権利です。会社に申請するときは、就業規則と合わせて確認しましょう。就業規則には、法律で定められた最低基準を上回る独自の制度(介護休業中の一部有給化、短時間勤務の対象期間の延長など)を設けている会社もあるため、「うちの会社は法律通りなのか、それ以上なのか」を人事担当者に確認しておくと、使える選択肢を見落とさずに済みます。

制度を知っていても使いづらいのはなぜ?

「制度があるのは知っているが、実際に申請するのは気まずい」という声は根強くあります。背景には、介護をしていることを職場に伝えると評価やキャリアに影響するのではという不安、前例が少なく手続きの実態がわからない不安があります。

この状況を変えるため、2025年4月の育児・介護休業法改正で、労働者が介護に直面したことを申し出た場合、会社が利用可能な制度を個別に周知し、利用の意向を確認することが義務化されました。つまり、以前は「制度を知っている労働者が自分から申請する」のが前提でしたが、改正後は会社側から案内する義務が加わっています。「言い出しにくい」と感じる場合は、まず人事担当者や上司に「家族の介護が始まった」ことだけでも伝えてみてください。会社側から制度の案内を受けやすくなります。


自分の時間はどう確保する?

両立がうまくいかない原因の多くは、「介護の時間」と「仕事の時間」だけでスケジュールが埋まり、自分の時間が消えることにあります。

1週間のタイムブロック

時間帯平日週末
朝6〜8時自分の身支度・朝食ゆっくり起床
日中9〜18時仕事介護タスク(通院・買い物)
夕方18〜20時介護対応自分の趣味・運動
夜20〜22時食事・家事家族との時間
夜22時以降自分の時間(読書・入浴・SNS)同左

ポイントは、「自分の時間」をカレンダーに予約として入れること。空き時間に押し込むのではなく、最初から確保します。介護の予定は病院の付き添いやケアマネとの面談など、動かせない予定から先に埋まっていくため、自分の時間を後回しにすると真っ先に消えてしまいます。「今週は水曜と土曜の夜22時以降は自分の時間」のように、先にブロックしてしまうのがコツです。

介護サービスを最大限活用する

  • 訪問介護: 朝・夕の食事や入浴を任せる
  • デイサービス: 平日昼間を任せ、仕事に集中
  • ショートステイ: 月1〜2回利用して、自分の休息を確保
  • 配食サービス: 食事準備の負担を減らす

「全部自分でやらない」が両立の基本です。どのサービスをどう組み合わせるかは、親の介護が始まったら──はじめての介護保険、申請から費用までやさしく解説で解説しているケアプランの考え方が土台になります。仕事との両立を前提にケアプランを組みたい場合は、その旨をケアマネジャーに具体的に伝えると、通所系・訪問系のバランスを提案してもらいやすくなります。

仕事と介護を両立するビジネスケアラー(約365万人)を支える3つの柱、法定制度の活用・時間管理の工夫・心の余白を保つ方法を、中央のハブから3カラムに分岐させて示した図解。


心の余白はどう守る?

時間管理だけでなく、心の余白がなければ両立は続きません。 相談できる窓口を複数持つことと、自分のための楽しみを削らないことの2つが柱になります。

相談できる窓口を3つ確保する

  1. 専門相談: 地域包括支援センター — 介護の困りごと全般
  2. 職場相談: 人事・上司 — 制度活用や勤務調整
  3. 私的相談: 介護経験者の友人・SNS — 気持ちの共有

介護そっとねっとアプリでは、匿名で介護の悩みを共有できる場を提供しています。「実名では話せないけど聞いてほしい」気持ちに、そっと寄り添います。一人で抱え込みやすい方の傾向やセルフチェックについては、介護のつらさと向き合うでもくわしく紹介しています。

3つの窓口は、それぞれ役割が異なります。地域包括支援センターは制度やサービスの具体的な調整に強く、職場相談は勤務条件そのものを変える力を持ち、私的な相談先は「ただ聞いてもらう」ことで気持ちを軽くする役割を担います。「制度の相談」と「気持ちの相談」を同じ窓口でまとめて済ませようとしないのがコツです。地域包括支援センターに愚痴を聞いてもらおうとしても本来の役割とずれてしまいますし、逆に友人に制度の相談をしても解決には至りません。窓口ごとの役割を意識して使い分けると、それぞれの相談がスムーズに進みます。

「楽しみ」を残す

両立を続けるには、自分のためだけの楽しみが必要です。

  • 週1回のカフェ時間
  • 月1回の映画館
  • お風呂で読書する30分
  • 散歩や軽い運動

「介護があるから諦めなきゃ」ではなく、「介護があるからこそ自分の楽しみは死守」。これが長く続けるコツです。楽しみを削り続けた先に待っているのは、燃え尽きて共倒れになるという最悪のパターンです。小さな楽しみを死守することは、わがままではなく、両立を長続きさせるための実務的な選択だと捉えてみてください。


兄弟・親族でどう分担する?

一人で抱えると、必ず限界が来ます。早めに親族会議を開いて、分担を明確にすることが両立の土台になります。

分担の例

担当役割
主介護者日常のケアと連絡窓口
副介護者月数回の応援、緊急時対応
資金担当介護費用の管理
遠隔担当電話・LINEでの精神的サポート、書類対応

「近くに住んでいる人=全てを担う」ではなく、役割を分けて全員参加にします。特に「近くに住んでいる」という理由だけで一人に負担が集中するケースは非常に多く、後になって不公平感からきょうだい間の関係がこじれる原因にもなります。分担の決め方やお金の話し合い方の具体的な進め方は、親の介護、兄弟の分担はどう決める?──揉めないための話し合い4ステップとお金の分け方でくわしく解説しています。

分担を決める際は、「誰が何をやるか」だけでなく「いつ見直すか」もあらかじめ決めておくと長続きします。介護の状況は本人の体調や要介護度の変化によって数ヶ月単位で変わっていくため、最初に決めた分担がずっと同じ形で続くとは限りません。「3ヶ月に一度、オンラインでも良いので分担の状況を確認し合う」というルールを最初に作っておくと、状況が変わったときに「言い出しにくくて我慢していた」という事態を防げます。


退職を考える前に確認したいことは?

介護離職を決める前に、制度とサービスを一通り試したかどうかを振り返ることが重要です。 介護離職は人生に大きな影響を与えます。

  • 収入が途絶える → 自分の老後資金が減る
  • 社会とのつながりが減る → 介護うつのリスクが上がる
  • 再就職が難しくなる → 50代以降は特に

退職する前に、次を確認しましょう。

  • 会社の人事に制度活用を相談したか(介護休業・介護休暇・短時間勤務など、使っていない制度が残っていないか)
  • ケアマネと介護サービスの最大活用を協議したか(訪問介護・デイサービス・ショートステイの利用回数は上限まで使い切っているか)
  • 地域包括支援センターで公的支援を確認したか

これらを試した上で、それでも限界なら退職を検討する——という順序が大切です。なお、2025年4月の育児・介護休業法改正で、会社が介護に直面した社員に制度を個別に案内する義務や、介護休暇を取りやすくする要件緩和が加わりました。改正で広がった「働きながら介護する家族の権利」については、仕事を辞めずに介護を続けるために──2025年に変わった「両立支援」、家族が使える新しい権利でくわしく解説しています。


両立でつまずきやすい失敗パターンと避け方

  • 制度を使わずに一人で抱え込み、限界まで我慢してから相談する:「みんな我慢しているはず」という思い込みで法定制度の利用を先送りにすると、体調を崩してから慌てて対応することになりがちです。介護が始まった時点で、一度制度の一覧を確認しておくと安心です。特に介護休業は「まとまった期間が必要になってから初めて存在を知る」というケースが多く、いざというときに慌てて手続き方法を調べることになりがちです
  • 自分の時間を「余ったら取る」ものだと考えてしまう:介護と仕事の予定を優先して埋めると、自分の時間は最後まで残りません。先に予約するという発想の転換が必要です
  • 一人で全部担おうとして、兄弟・親族に頼るタイミングを逃す:「迷惑をかけたくない」という気持ちが先に立ち、分担の相談自体を先延ばしにしてしまうことがあります。早い段階で「一緒に考えてほしい」と声をかけるだけでも状況は変わります
  • 会社に相談する前に「どうせ理解されない」と決めつけてしまう:2025年の法改正で会社側の周知義務が強化されたこともあり、実際に相談してみると想定より柔軟に対応してもらえるケースもあります

いずれも、「一人で頑張りすぎる前に、使えるものを先に確認する」という一手間で防げるものばかりです。共通しているのは、我慢や遠慮が「まだ大丈夫」という判断を後押ししてしまう点です。制度・時間・分担のどれか一つでも「そういえば確認していなかった」と思い当たるものがあれば、そこから見直してみることをおすすめします。


まとめ

この記事で持ち帰れることは、次の3つです。

  • 介護休業(最大93日×3回)と介護休暇(年5日)は役割が異なる制度。まとまった期間が必要なら休業、単発の用事なら休暇と使い分けられる
  • 自分の時間は「余ったら取る」のではなく「先にスケジュールへ予約する」 ことで守れる。介護サービスも「全部自分でやらない」前提で組み合わせる
  • 退職は最後の選択肢。制度・介護サービス・親族分担を一通り試したかを振り返ってから判断する

今日からできる小さな一歩として、今週のスケジュール帳を開いて、「自分だけの時間」をどこか1コマだけ先に予約してみてください。それだけで、両立の負担感が少し変わってくるはずです。仕事と介護の両立は、決して一人の頑張りで成立するものではありません。制度と人とサービスをうまく組み合わせて、長く続けられる形を少しずつつくっていきましょう。

参考情報(一次情報)

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