親のお金や契約を守る「成年後見制度」とは──家族のためのやさしい入門と、2026年の大改正
「認知症が進んだ親の銀行口座が、家族でも下ろせなくなってしまった」 「施設の入所契約に、親本人のサインができない」 「実家を売って介護費用に充てたいのに、手続きが進まない」
——介護が長くなるにつれ、こうした「お金と契約」の壁にぶつかるご家族は少なくありません。そんなときに知っておきたいのが、成年後見制度です。
名前は聞いたことがあっても、「手続きが難しそう」「一度始めると一生やめられないと聞いた」といったイメージから、踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、成年後見制度の基本のしくみと、家族が直面しやすい場面、そして2026年に予定されている大きな制度改正までを、公式情報をもとにやさしくまとめました。
この記事でわかること
- 成年後見制度とは何か、なぜ家族にとって必要になるのか
- 「法定後見」と「任意後見」の違い、3つの類型(後見・保佐・補助)
- 制度を使う前に知っておきたい注意点と費用
- 2026年の大改正で何が変わろうとしているのか
- 迷ったときの相談先
成年後見制度とは──判断力が下がった人を支えるしくみ
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分でない方を、法的に支えるための制度です。2000年(平成12年)、介護保険制度と同じ年にスタートしました。
判断力が下がると、たとえば次のような場面で困りごとが生まれます。
- 預貯金の出し入れや、定期預金の解約ができない
- 介護施設や介護サービスの契約を、本人だけでは結べない
- 不要な高額商品を契約させられるなど、消費者被害に遭いやすい
- 遺産分割協議に、本人が有効に参加できない
こうしたとき、家庭裁判所が選んだ**成年後見人など(後見人・保佐人・補助人)**が、本人に代わって財産を管理したり、契約を支援したりします。
利用者は約25万人。介護現場でも身近な制度
最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)」によると、2024年(令和6年)12月末時点の利用者数は合計253,941人にのぼります。緩やかながら年々増えており、高齢化のなかで、介護をする家族にとってますます身近な制度になっています。
ポイント:成年後見制度は「特別な人のための制度」ではありません。親の介護が長くなり、財産管理や契約の場面が増えると、どの家庭でも検討の対象になりえます。
「法定後見」と「任意後見」──2つの入り口
成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見の2種類があります(法務省)。
| 法定後見 | 任意後見 | |
|---|---|---|
| いつ使うか | すでに判断力が下がってから | 判断力があるうちに、将来に備えて |
| 誰が支援者を決めるか | 家庭裁判所が選ぶ | 本人があらかじめ選ぶ |
| 権限の決め方 | 法律と裁判所が定める | 本人と支援者の契約で定める |
法定後見の3つの類型(後見・保佐・補助)
法定後見は、本人の判断能力の程度に応じて、**「後見」「保佐」「補助」**の3つに分かれます(裁判所)。
| 類型 | 対象となる状態の目安 | 支援者 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 成年後見人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 補助人 |
判断力の低下が大きいほど「後見」に、軽いほど「補助」に近づくイメージです。実際の利用は「後見」が大半を占めており、令和6年末時点で**後見が約70.6%、保佐が約21.6%、補助が約6.6%、任意後見が約1.1%**という内訳になっています(最高裁判所事務総局家庭局)。
任意後見は「元気なうちの備え」
任意後見は、判断力があるうちに、「将来、自分の判断力が下がったら、この人に支援してほしい」とあらかじめ公正証書で契約しておくしくみです。誰に・どこまで任せるかを本人が決められるのが特徴で、人生会議(ACP)と同じく「元気なうちの備え」のひとつといえます。
「もしものとき」を家族と話し合う考え方は、親の「もしも」を一緒に考える──家族のための人生会議(ACP)のはじめ方でも詳しく扱っています。あわせて読むと、医療・ケアの希望(人生会議)と、財産・契約の備え(任意後見)の両面から、親の「これから」を考えやすくなります。
家族が制度を考えるのは、どんなとき?
「うちはまだ大丈夫」と思っていても、介護が続くなかで、制度の利用を考える場面は意外と身近です。最高裁判所の統計(令和6年)では、申立ての主な動機として、次のようなものが多く挙げられています(複数回答)。
- 預貯金等の管理・解約:約92.7%
- 身上保護(施設入所・介護サービスの契約など):約73.5%
- 介護保険契約:約44.7%
(出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和6年)」)
ここからわかるのは、家族がいちばん困るのは「お金」と「契約」の場面だということです。
- 親の口座から介護費用を払いたいのに、本人が手続きできず、家族も代わりにできない
- 認知症が進み、金融機関が口座を「凍結」してしまった
- 施設入所の契約に、本人の有効な意思表示が必要になった
——こうした「壁」に直面したとき、成年後見制度が選択肢になります。介護サービスの契約手続きそのものは、親の介護が始まったら──はじめての介護保険、申請から費用までやさしく解説でも触れていますが、判断力が下がってからの契約には、後見制度が必要になる場面があるのです。
使う前に知っておきたい注意点
成年後見制度は心強いしくみですが、利用前に知っておきたいポイントもあります。
1. 申立ては家庭裁判所へ
法定後見を使うには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。申立てができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族などです。診断書や戸籍などの書類をそろえる必要があり、手続きには一定の手間と時間がかかります。詳しい手続きは裁判所の案内ページで確認できます。
2. 後見人は「家族」とは限らない
申立て時に家族を後見人候補として希望することはできますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が判断します。財産が多い場合などには、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあります。
3. 専門職が選ばれると費用がかかる
専門職が後見人になった場合、本人の財産から報酬が支払われます。金額は家庭裁判所が決めますが、継続的な負担になる点は、あらかじめ家族で理解しておきましょう。
4. これまでは「一度始めるとやめにくい」とされてきた
現行制度では、いったん後見が始まると、本人の判断力が回復しない限り事実上、生涯にわたって続く運用になっており、「使いにくい」「柔軟性がない」という声が長く指摘されてきました。この点こそ、次に紹介する2026年の改正で大きく見直されようとしています。
2026年、約26年ぶりの大改正へ
成年後見制度は、利用のしにくさや硬直性が課題とされ、見直しの議論が続いてきました。そして2026年、政府は制度を大きく見直す民法などの改正案を閣議決定し、国会に提出しました。2000年の制度開始以来、約26年ぶりの大改正となります(福祉新聞)。
大切な前提:以下は「これから変わる予定」の内容です。2026年6月時点では改正法はまだ施行されていません。施行は、一部を除いて公布から2年6ヶ月以内とされており、おおむね2028年ごろの見込みです。現時点で制度を利用する場合は、引き続き現行のしくみが適用されます。
改正案で予定されている主な変更点は、次のとおりです。
1. 3類型を「補助」に一本化
現行の「後見」「保佐」「補助」の3類型のうち、「後見」と「保佐」を廃止し、「補助」に一本化する方向です。本人の状態で型を固定するのではなく、必要な支援を選べるオーダーメード型に近づけることが狙いとされています。
2. 終身制の廃止──「必要な期間だけ」使える
これまで事実上「一度始めたらやめにくい」とされてきた点を改め、必要がなくなれば利用をやめられるようにする方向です。家庭裁判所があらかじめ利用の期間を定められるようにするなど、柔軟な運用が検討されています。
3. 権限を必要な範囲に限定
支援者に与える権限を、遺産分割や不動産の処分など、本当に必要な範囲に限定する方向です。「すべてを代わりにやる」のではなく、本人の自己決定をできるだけ尊重するという考え方が背景にあります。
家族にとっての意味:改正が実現すれば、「一生続くのが不安で踏み出せなかった」という家族にとって、制度はぐっと利用しやすくなる可能性があります。ただし、繰り返しになりますが施行はこれから。最新情報は法務省などの公式発表で確認しましょう。
迷ったときの相談先
「うちの場合はどうすればいいの?」と迷ったときは、一人で抱え込まず、専門の窓口に相談しましょう。
| 相談先 | 相談できる内容 |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 介護全般の総合相談。後見制度の入口の相談も可能 |
| 市区町村の窓口・中核機関 | 成年後見制度利用支援の案内、申立て支援 |
| 家庭裁判所 | 申立ての手続き・必要書類の案内 |
| 弁護士・司法書士・社会福祉士 | 具体的な手続きや書類作成のサポート |
まずは身近な地域包括支援センターに相談するのがおすすめです。介護保険の相談と同じく、高齢者の暮らしを総合的に支える窓口として、後見制度についての入口の案内もしてくれます。在宅介護の準備全般については、在宅介護、何から始めればいい?──不安を減らす準備チェックリストもあわせてご覧ください。
一人で抱え込まないために
親のお金や契約をどう守るかという問題は、正解が一つではなく、家族の事情によって最適な形が変わる難しいテーマです。「自分が決めなければ」と気負うほど、肩に力が入ってしまいます。
制度の手続きそのもの以上に、家族のあいだで「親の財産をどう守るか」「誰が中心になって動くか」を話し合うことが、実はいちばん大切な一歩です。話し合いが負担に感じられるときは、介護がつらいと感じたら──介護疲れのサインと、心を守るセルフケアも参考にしてみてください。
介護そっとねっとには、同じように親の「お金」や「これから」に向き合っているご家族がたくさんいます。「後見制度って実際どうなの?」「うちはこう考えている」——そんな悩みや経験を、匿名でそっと分かち合える場所です。制度の最終的な判断は専門家に相談しつつ、気持ちの面では、一人で抱え込まずに仲間とつながってみてください。
まとめ
この記事の要点(再掲)
- 成年後見制度は、判断力が下がった人の財産管理・契約を支える制度。2024年末の利用者は約25万人
- 「法定後見」(後見・保佐・補助の3類型)と「任意後見」があり、家族が困るのは「お金」と「契約」の場面
- 申立て動機は「預貯金等の管理・解約」が約92.7%で最多。介護費用の支払いや口座凍結で直面しやすい
- 2026年、約26年ぶりの大改正案が国会へ。3類型を「補助」に一本化し、終身制を廃止して「必要な期間だけ」使える柔軟な制度に(施行は公布から2年6ヶ月以内の見込み・現時点では未施行)
- 迷ったらまず地域包括支援センターへ。最新情報は法務省などの公式発表で確認を
成年後見制度は、決して「最後の手段」ではありません。親の暮らしと財産を、家族が安心して守るための選択肢のひとつです。改正によって、これからもっと使いやすくなろうとしています。
まずは「うちの場合はどうだろう」と考えてみるところから。その一歩が、いざというときのご家族の支えになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度の具体的な利用や手続きの判断については、必ず地域包括支援センター・市区町村の窓口・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。法改正の内容は今後の国会審議により変わる可能性があります。最新情報は公式発表をご確認ください。
参考情報(一次情報)
- 法務省 - 成年後見制度・成年後見登記制度
- 裁判所 - 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ
- 最高裁判所事務総局家庭局 - 成年後見関係事件の概況
- 厚生労働省 - 成年後見はやわかり
- 厚生労働省 - 介護・高齢者福祉
本記事の編集方針・監修体制・訂正ポリシーは 編集方針ページ をご覧ください。
よくある質問
成年後見制度とは何ですか?
認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が十分でない方を法的に支える制度で、2000年に介護保険制度と同じ年に始まりました。家庭裁判所が選んだ後見人・保佐人・補助人が、本人に代わって預貯金などの財産を管理したり、介護施設の契約を支援したりします。最高裁判所の統計では、2024年12月末時点の利用者数は合計253,941人にのぼります。
「法定後見」と「任意後見」はどう違いますか?
法定後見は、すでに判断力が低下してから家庭裁判所に申し立てて利用する制度で、家庭裁判所が支援者を選び、権限も法律と裁判所が定めます。任意後見は、判断力があるうちに「将来この人に支援してほしい」とあらかじめ公正証書で契約しておく制度で、誰に・どこまで任せるかを本人が決められます。法定後見は本人の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3類型に分かれます。
家族が成年後見制度を考えるのは、どんな場面ですか?
最高裁判所の令和6年の統計では、申立ての主な動機は「預貯金等の管理・解約」が約92.7%で最も多く、次いで施設入所や介護サービスの契約などの「身上保護」が約73.5%、「介護保険契約」が約44.7%です(複数回答)。親の口座から介護費用を払いたいのに本人が手続きできない、認知症が進み金融機関に口座を凍結された、施設入所の契約に本人の意思表示が必要になった、といった『お金と契約』の場面で家族が直面しやすくなっています。
成年後見制度を使う前に知っておきたい注意点はありますか?
法定後見は本人の住所地を管轄する家庭裁判所への申立てが必要で、診断書や戸籍などの書類をそろえる手間がかかります。後見人候補に家族を希望できますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が判断し、財産が多い場合などは弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあります。専門職が後見人になると本人の財産から報酬が支払われ、継続的な負担になります。また現行制度では、いったん始まると判断力が回復しない限り事実上生涯続く運用になっている点も理解しておきましょう。
2026年の成年後見制度の改正では何が変わるのですか?
2026年、政府は制度を大きく見直す民法などの改正案を閣議決定し、国会に提出しました。2000年の制度開始以来、約26年ぶりの大改正です。主な内容は、後見・保佐・補助の3類型を「補助」に一本化すること、事実上の終身利用をやめて必要な期間だけ使える柔軟なしくみにすること、支援者の権限を必要な範囲に限定することの3点です。ただし2026年6月時点では改正法はまだ施行されておらず、施行は一部を除いて公布から2年6ヶ月以内(おおむね2028年ごろ)の見込みで、現時点では引き続き現行のしくみが適用されます。
成年後見制度について、どこに相談すればよいですか?
まずは身近な地域包括支援センターに相談するのがおすすめです。介護保険の相談と同じく、高齢者の暮らしを総合的に支える窓口として、後見制度についての入口の案内もしてくれます。そのほか、市区町村の窓口や中核機関では制度利用支援や申立て支援を、家庭裁判所では手続きや必要書類の案内を受けられます。具体的な手続きや書類作成は、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職に相談できます。
ご利用にあたっての免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的として介護そっとねっと編集部が作成したものです。介護保険や医療・心理に関わる個別のご判断については、 お住まいの市区町村の地域包括支援センター、主治医、担当ケアマネジャー、または厚生労働省の公式情報をご確認ください。記事は2026.6.23時点の情報に基づきます。
この記事を書いた人
介護そっとねっと編集部
編集部
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