「冬になると、親が一人でお風呂に入るのが心配」 「実家の脱衣所が寒いけれど、何から手をつければいいのか分からない」 「長湯の親に、どう声をかければいいのか迷う」

——寒くなる季節を前に、こうした不安を抱えるご家族は少なくありません。冬の入浴中の事故は、持病や前兆がない人にも起こるおそれがあると消費者庁も注意を呼びかけています。

この記事では、消費者庁・健康長寿ネットの公開資料をもとに、冬の入浴で何が起きているのか、入浴の前・入浴中・出るときに家族ができること、もしものときの対応、そして自宅での入浴が不安になったときに使える介護サービスを整理しました。夏の暑さ対策は【2026年版】高齢者の熱中症予防、在宅介護でどう防ぐ?──室温28℃・水分補給・警戒アラートで扱っています。夏は「室温を下げる」、冬は「部屋と部屋の温度差を小さくする」と考えると、季節ごとの備えを整理しやすくなります。

この記事でわかること

  • 冬の入浴中の事故がどれくらい起きているか
  • ヒートショックが入浴中に危ない理由
  • 入浴の前・入浴中・出るときに家族ができる準備と声かけ
  • 浴槽でぐったりしていたときの対応の手順
  • 自宅での入浴が不安になったときの介護サービス

冬の入浴中の事故は、どれくらい起きている?

2023年(令和5年)に浴槽での事故で亡くなった65歳以上の方は6,541人でした。同じ年に交通事故で亡くなった65歳以上の方(2,116人)の約3倍です。

消費者庁のコラム「高齢者の事故 ―冬の入浴中の溺水や食物での窒息に注意―」(2024年12月)によると、厚生労働省の人口動態統計(令和5年)で、浴槽での事故による65歳以上の死亡者は6,541人、そのうち家や居住施設の浴槽での死亡者は6,073人です。「不慮の溺死及び溺水」で亡くなった高齢者の約8割が入浴中に亡くなっています。

事故が多いのは冬です。消費者庁の注意喚起「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」では、家や居住施設の浴槽での事故は11月〜4月の冬季を中心に多く起きているとしています。健康長寿ネットの「高齢者の入浴事故 ヒートショック対策と予防」では、ヒートショックは12月〜2月の冬場に年間の約半数が集中するとされています。

本格的に冷え込む前の秋のうちに、実家の脱衣所の寒さや、入浴の時間帯を一度確かめておくと、冬の準備が間に合います。


ヒートショックとは? なぜ入浴中に危ないの?

急な温度の変化で血圧が大きく上下し、失神や不整脈などが起きることをいいます。湯船の中で意識を失うと、そのまま溺れてしまうおそれがあります。

消費者庁の資料では、入浴時の血圧の動きを次のように説明しています。

  1. 暖かい居間から、寒い脱衣所・浴室に入ると、血圧が上がる
  2. その後、温かい湯につかると、血圧が下がる
  3. 高齢になると血圧を正常に保つ働きが弱まるため、急な変動で脳の血流が減り、意識を失うことがある

もう一つの危険は、熱い湯に長くつかることによる体温の上昇です。消費者庁によると、42度の湯に10分入ると体温が38度近くに達し、意識がもうろうとして浴槽から出られなくなったり、浴槽内にしゃがみ込んだりして溺れるおそれがあります。

また、居間や脱衣所が18度未満の住宅では、42度以上の「熱め入浴」が増えるという調査結果も紹介されています。寒い家ほど熱い湯に長くつかりたくなるため、部屋を暖めることと、湯温を上げすぎないことはセットで考える必要があります。


入浴の前に、家族ができる準備は?

脱衣所と浴室を先に暖めること、食後すぐ・飲酒後・服薬後の入浴を避けること、入る前に家族へ一声かけてもらうことの3つです。

冬の入浴で家族と一緒に確認する3つの場面を示した図。入浴の前は脱衣所と浴室を暖め、食後すぐ・飲酒後・服薬後は避け、入る前に一声かける。湯につかっている間は湯温41度以下・10分までを目安にし、家族がこまめに声をかける。浴槽から出るときは手すりを使ってゆっくり立ち上がる。下段には浴槽でぐったりしていたときの対応手順をまとめている。

1. 脱衣所と浴室を先に暖める

脱衣所には暖房器具を置き、入浴の少し前から暖めておきます。浴室に暖房設備がない場合、消費者庁は次の方法を紹介しています。

  • 湯を浴槽に入れるときに、シャワーから給湯する
  • 湯が沸いたら十分にかき混ぜて蒸気を立て、ふたを外しておく

居室だけでなく家全体を暖かくし、部屋ごとの温度差を小さくすることが大切だとされています。

2. 食後すぐ・飲酒後・服薬後の入浴は避ける

食後は血圧が下がりすぎる「食後低血圧」で失神することがあり、飲酒でも一時的に血圧が下がります。消費者庁は、食後すぐの入浴、アルコールが抜けるまでの入浴、精神安定剤や睡眠薬などの服用後の入浴を避けるよう呼びかけています。体調が悪い日も入浴を控えます。

親御さんが夕食後すぐにお風呂に入る習慣がある場合は、「夕食の前に入る」「食後は少し時間をあけてから入る」など、入浴の時間帯を一緒に見直してみてください。服薬の時間との兼ね合いは、かかりつけ医や薬剤師に確認しておくと、入浴の時間帯を決めやすくなります。

3. 入る前に「今から入るね」と一声

入浴中の異変は、周りの人に早く気づいてもらうことが大切です。入る前に同居の家族へ一声かけてもらうと、家族は「いま入浴中だ」と意識できます。

消費者庁は、寒さが厳しい日には、気象情報からヒートショックのリスクの目安を示す「ヒートショック予報」なども参考にするよう勧めています。日本気象協会のヒートショック予報で、実家のある地域の目安を見ておくのも一つの方法です。


湯につかっている間、家族はどう見守ればいい?

湯温は41度以下、つかるのは10分までを目安にします。家族はこまめに声をかけ、長すぎる・音がしない・大きな音がした、というときはためらわずに様子を確かめます。

入浴そのものの目安として、消費者庁は次の点を挙げています。

場面目安
湯の温度41度以下
湯につかる時間10分まで
湯につかる前かけ湯をていねいに行う
浴槽から出るとき手すりや浴槽のへりを使って、ゆっくり立ち上がる

湯の中では体に水圧がかかっています。急に立ち上がると、圧迫されていた血管が一気に広がり、脳へ行く血液が減って立ちくらみや一時的な意識障害を起こすことがあります。浴槽から出るときは、ゆっくり立ち上がるよう伝えておきましょう。

家族の見守りとして、消費者庁は次のような異常に気づいたら、ためらわずに声をかけるよう呼びかけています。

  • いつもより入浴時間が長い
  • 浴室から音がしない
  • 突然、大きな音がした

「長湯を注意されるのが嫌」という親御さんもいます。入浴中に何度も声をかけるのが気まずい場合は、「上がったら『出たよ』と声をかけてね」と約束しておき、10分を過ぎても声がなければ様子を見に行く、という決まりにしておくと、お互いに気をつかわずに続けやすくなります。

離れて暮らす親の場合は?

一人暮らしの親の入浴は、家族がその場で見守ることができません。電話をかける時間帯を入浴後に合わせる、寒い日は入浴の時間を早めにしてもらう、といった工夫を親御さんと話し合っておくとよいでしょう。離れて暮らす親の見守り全般は、一人っ子・遠距離介護、親をどう支える?──きょうだいがいない・離れて暮らす家族のための備えと使えるサービスでも紹介しています。


浴槽でぐったりしていたら、どうすればいい?

まず浴槽の栓を抜いて大声で助けを呼び、沈まないようにしてすぐに119番します。浴槽から出せたら、反応と呼吸を確かめ、呼吸がなければ胸骨圧迫を始めます。

消費者庁は、浴槽でぐったりしている人を見つけたときの対応を、次の手順で案内しています(可能な範囲で行います)。

  1. 浴槽の栓を抜く。大声で助けを呼び、人を集める
  2. 浴槽から出せるようであれば出す。出せない場合は、ふたに上半身を乗せるなどして沈まないようにする。すぐに救急車を呼ぶ
  3. 浴槽から出せた場合は、肩をたたきながら声をかけ、反応があるか確かめる
  4. 反応がない場合は、呼吸を確かめる
  5. 呼吸がない場合は、胸骨圧迫を始める
  6. 人工呼吸ができる場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返す。できなければ胸骨圧迫だけを続ける

いざというときに体が動くよう、消防署などが開いている救命講習を受けておくことも勧められています。手順を紙に書いて、脱衣所の近くに貼っておくご家庭もあります。


自宅での入浴が不安になったら、どんな介護サービスがある?

デイサービスで入浴する、訪問入浴介護で自宅に浴槽を持ち込んでもらう、ヘルパーに入浴介助を頼む、といった方法があります。浴室の手すりの取付けは介護保険の住宅改修の対象です。

要介護認定を受けている方は、介護保険のサービスで入浴を支えてもらうこともできます。

方法どんなときに検討するか
デイサービス(通所介護)での入浴通う体力があり、自宅の浴室が寒い・狭いなどで家での入浴に不安がある
訪問入浴介護自宅の浴槽での入浴が難しく、寝たきりに近い状態でも家で入浴したい
訪問介護(ホームヘルプ)の入浴介助自宅の浴室で、介助があれば入浴できる
住宅改修(手すりの取付けなど)浴槽から立ち上がるときにつかまる場所がほしい

デイサービスの入浴の様子や選び方はデイサービスとは?費用の目安・1日の流れ・選び方、親が行きたがらないときの対応まで解説、専用の浴槽を持ち込んで自宅で入浴する方法は訪問入浴介護とは?対象者・料金・サービスの流れをやさしく解説で詳しく紹介しています。

浴室の手すりの取付けは、介護保険の住宅改修の対象になる6種類の工事の一つです。一方で、浴室暖房機の設置はこの6種類に含まれていません。手すりの取付けを検討する場合は、介護保険の住宅改修は20万円まで──手すり・段差解消の対象工事と申請の流れで、着工前の申請の流れを確かめてください。

どのサービスが合うかは、身体の状態や家の造りによって変わります。「冬の入浴が心配になってきた」と、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに伝えるところから始めてください。


今日からできること

寒くなる前に、次の3つから始めてみましょう。

  1. 実家の脱衣所と浴室の寒さを確かめる:暖房器具を置けるか、シャワーで湯はりができるかを見ておく
  2. 入浴の決まりごとを家族で話す:入る前の一声、「出たよ」の合図、食後すぐは入らない、を共有する
  3. もしものときの手順を貼っておく:栓を抜く、助けを呼ぶ、119番の順番を、脱衣所の近くに書いておく

親の入浴の見守りは、毎日のことだからこそ家族の気がかりになりやすいテーマです。介護そっとねっとには、冬の入浴をどう見守っているか、どんな声かけをしているかといった経験を、匿名で分かち合っているご家族がいます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。持病のある方や、入浴中にめまい・立ちくらみを起こしたことがある方は、入浴の仕方についてかかりつけ医に相談してください。介護サービスの利用は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターにご確認ください。

参考情報(一次情報)

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