「親が『最期は家で』と言っている。でも、家族だけで本当に看られるのか分からない」 「夜中に息が止まったら、救急車を呼べばいいの?」 「訪問診療の先生から在宅看取りの話が出たけれど、何を準備すればいいのか見当がつかない」

——親の病気が進み、残された時間を意識するようになったご家族から、こうした声が届きます。家で最期を過ごすことは、医療と介護の専門職が自宅に来てくれる仕組みを使えば、家族が医療の知識を持っていなくても選べる道です。

この記事では、厚生労働省の通知・ガイドラインと東京消防庁の案内をもとに、在宅看取りを支える人、家族が前もって準備すること、呼吸が止まったときの連絡の順番、費用を軽くする制度、そして気持ちが揺れたときの考え方を整理しました。病状や治療の判断は、主治医や訪問看護師に確認してください。

この記事でわかること

  • 在宅看取りを支えてくれる人と、それぞれの役割
  • 家族が前もって準備しておく4つのこと
  • 呼吸が止まったときに、どこへ電話するか
  • 医師が立ち会えなかったときの死亡診断書の扱い
  • 費用を軽くする制度と、途中で方針を変えたくなったときの考え方

在宅看取りは、誰が支えてくれる?

訪問診療の医師と訪問看護師が中心になり、ケアマネジャー、ホームヘルパー、福祉用具の事業者などがチームで支えます。家族は本人のそばで過ごし、変化に気づいたらチームに連絡する役割を担います。

在宅看取りに関わる主な人と役割は、次のとおりです。

支える人主な役割
訪問診療の医師定期的に自宅で診察し、痛みや息苦しさを和らげる治療を考える。急な変化のときの往診、死亡の確認と死亡診断書の作成
訪問看護師体調の観察、医師の指示による医療的な処置、痛みや苦しさへの対応。家族への介助の助言。24時間対応の体制がある事業所では夜間の電話相談も
ケアマネジャー介護保険のサービスを組み合わせたケアプランを作り、事業所との調整を行う
ホームヘルパー・訪問入浴おむつ交換、体位の交換、身体を清潔に保つ介助など
福祉用具の事業者介護ベッドやエアマットなどの貸与

訪問診療を担う診療所のうち「在宅療養支援診療所」には、24時間連絡を受ける体制、24時間往診できる体制、24時間訪問看護を提供できる体制を整えることが、国の基準として求められています(厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の資料)。まずは今の主治医に、訪問診療をしている医療機関を紹介してもらえるか相談します。かかりつけ医がいない場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターにも相談できます。

訪問看護は、介護保険と医療保険のどちらを使うかで回数や費用の仕組みが変わります。末期がんなど病状によっては医療保険の訪問看護になることもあるため、訪問看護とは?医療保険と介護保険の違い・費用の目安・頼めることをやさしく解説で仕組みを確かめておくと、説明を受けたときに話が追いやすくなります。


在宅看取りを始める前に、家族は何を準備する?

本人の希望を聞くこと、支える人を決めること、連絡先を1枚にまとめること、家族が休む段取りを決めることの4つです。とくに連絡先は、家族全員が同じ紙を見て動けるようにしておきます。

在宅看取りの準備と、呼吸が止まったときの連絡を示した図。上段は、本人の希望を聞く、支える人を決める、連絡先を1枚にまとめる、家族の休みを決める、の4つの準備。下段は、在宅看取りを決めていて呼吸が止まったと気づいたら、決めておいた訪問看護ステーションまたは訪問診療の医師へ連絡し、医師が訪問して確認し、死亡診断書を添えて7日以内に死亡届を出す流れ。看取りを想定していない急変・事故や、連絡先につながらないときは119番に通報することも示している。

1. 本人の希望を聞く

どこで過ごしたいか、どんな医療を受けたいか、受けたくないかを、本人の言葉で聞いておきます。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、本人による意思決定を基本とし、本人の意思は時間の経過や心身の状態の変化で変わりうるものとして、話し合いを繰り返すことが重要だとしています(厚生労働省 ガイドライン(2018年3月改訂))。

本人と話すきっかけのつくり方や、最初にかける一言の例は、親の「もしも」を一緒に考える──家族のための人生会議(ACP)のはじめ方で紹介しています。話した内容は、訪問診療の医師や訪問看護師にも伝えておきます。

2. 支える人を決める

訪問診療の医師、訪問看護ステーション、ケアマネジャーが決まったら、最初の面談で次の点を聞いておくと、後で慌てずに済みます。

  • 夜間・休日に電話したとき、誰が出て、往診や訪問をしてもらえるか
  • 自宅での看取りに対応しているか
  • 痛みや息苦しさが強くなったとき、どんな対応ができるか
  • 介護ベッドなどの福祉用具を、いつまでに用意すればよいか

介護ベッドやエアマットは介護保険の福祉用具貸与で借りられます。選び方は介護ベッド・車いすはレンタル?購入?福祉用具の選び方と費用をやさしく解説で解説しています。

3. 連絡先を1枚にまとめる

連絡先は、家族の誰が見ても分かるように1枚の紙にまとめ、電話のそばに貼っておきます。次のような表にしておくと、夜中でも迷いにくくなります。

書いておくこと記入例(自分の家の内容に置き換えて書きます)
最初に電話する先訪問看護ステーションの24時間連絡先
次に電話する先訪問診療の診療所の夜間連絡先
家族への連絡の順番同居の長女 → 遠方の長男 → 叔母
介護サービスの連絡先ケアマネジャー、ヘルパー事業所
手元に置くもの保険証、お薬手帳、本人の希望を話し合った内容のメモ

4. 家族が休む段取りを決める

看取り期は、夜間の見守りが続くこともあります。付き添いの交代の順番を決め、一人が眠れる時間をつくっておきます。働いている家族は、介護休業(対象家族1人につき3回まで、通算93日)や介護休暇を使える場合があります(厚生労働省 介護休業)。会社への伝え方は仕事を辞めずに介護を続けるために──2025年に変わった「両立支援」、家族が使える新しい権利、きょうだいでの分担は親の介護、兄弟で揉めないために──分担の決め方とお金の話し合い方を参考にしてください。


呼吸が止まったら、最初にどこへ電話する?

在宅看取りを決めている場合は、事前に決めておいた訪問看護ステーションか訪問診療の医師に電話します。119番に通報すると、救急隊は救命を主眼に動くため、心肺蘇生や搬送が始まることがあります。

東京消防庁は、本人と家族が医師らと話し合って自宅での看取りの意思を固めていても、慌てた家族が119番に通報した場合、救急隊は救命を主眼とするため、そのままでは本人の意思に沿うことができないと説明しています(東京消防庁 心肺蘇生を望まない傷病者への対応について)。

東京消防庁では、人生会議(ACP)が行われていて、本人が心肺蘇生を望んでいないことなどを救急隊がかかりつけ医に確認できた場合に、心肺蘇生を中止してかかりつけ医や家族に引き継ぐ運用を定めています。ただし、こうした運用の有無や手順は地域の消防本部によって異なります。どの地域でも確実なのは、最初の電話先を訪問看護・訪問診療にしておくことです。

一方で、次のようなときはためらわず119番に通報してください。

  • 転倒や窒息など、看取りとして想定していなかった事故や急変が起きた
  • 決めておいた連絡先に電話がつながらない
  • 本人がどんな状態なのか分からず、判断がつかない

迷ったときにすぐ相談できるよう、訪問看護師に「こういうときは、まずここへ電話」という線引きを前もって確認しておくと、いざというときに迷う時間が短くなります。


医師が間に合わなかったら、死亡診断書はもらえない?

もらえる場合があります。医師が立ち会えず、最後の診察から24時間を過ぎていても、死亡後に改めて診察し、生前に診療していた病気に関連する死亡と判定できれば、死亡診断書を交付できます。

「最後の診察から24時間を過ぎて亡くなると、死亡診断書が書けず警察に届けなければならない」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。厚生労働省は2012年の通知で、これは医師法第20条の誤った解釈であり、こうした誤解で在宅での看取りが適切に行われていないケースがあると指摘しています(厚生労働省 医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知))。

通知の内容を家族の側から整理すると、次のようになります。

場面扱い
最後の診察から24時間以内に、診療していた病気で亡くなった改めて診察しなくても死亡診断書を交付できる
24時間を過ぎていても、死亡後の診察で、診療していた病気に関連する死亡と判定できた死亡診断書を交付できる
診療していた病気に関連する死亡と判定できない死体の検案を行う。異状があると認められる場合は警察署へ届け出る

この仕組みが成り立つのは、日頃から訪問診療で診てもらっていることが前提です。在宅看取りを考え始めたら、早めに訪問診療につながっておきます。

死亡診断書を受け取ったら、死亡届を出します。死亡届は、届出をする人が死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡診断書を添えて出すことが戸籍法第86条で定められています(e-Gov法令検索 戸籍法)。提出先や受付時間は、市区町村の案内で確かめてください。


在宅看取りの費用はどう考える?

訪問診療などの医療保険の自己負担と、介護保険サービスの自己負担が別々にかかります。金額は病状や利用するサービスで大きく変わるため、医療機関とケアマネジャーにそれぞれ見積もりを聞くのが確実です。

費用は、おおまかに次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

費用の種類例負担を軽くする制度
医療保険の自己負担訪問診療、往診、医療保険の訪問看護、薬代高額療養費
介護保険の自己負担訪問介護、介護保険の訪問看護、訪問入浴、福祉用具貸与高額介護サービス費
保険の対象外の費用おむつなどの消耗品、交通費など一部は医療費控除の対象になる場合がある

介護保険の自己負担が1ヶ月の上限を超えたときは高額介護サービス費とは?──払い戻しの上限額・申請方法と令和8年8月からの基準額改定をやさしく解説、医療と介護の両方の自己負担が1年間で高額になったときは医療費と介護費用、両方が高額なら「合算」で戻ってくることも──高額医療・高額介護合算療養費制度をやさしく解説で、対象と申請の流れを確認できます。訪問看護の費用などの医療費控除の扱いは介護費用は医療費控除の対象になる?──訪問看護・おむつ代・施設費用まで、対象範囲をやさしく解説で整理しています。

領収書は、医療機関・介護事業所ごとにまとめて保管しておくと、後で払い戻しの申請や確定申告をするときに探す手間が減ります。


「やっぱり家では無理かもしれない」と感じたら?

入院や施設への切り替えも、選んでよい道です。一度決めた場所を守り通すことが目的ではありません。本人の苦痛や家族の限界を感じたら、訪問診療の医師や訪問看護師に相談します。

先に紹介した厚生労働省のガイドラインは、本人の意思が変わりうることを前提に、その都度話し合うことを求めています。家族の状況が変わることも同じです。

  • 本人の痛みや息苦しさが、家での対応では和らがない
  • 夜間の見守りが続き、家族が眠れていない
  • 家族の誰かが体調を崩した

こうしたときは、在宅で続けるための手立て(訪問の回数を増やす、ヘルパーを増やすなど)と、入院・施設に移る選択肢の両方を、医師・訪問看護師・ケアマネジャーと一緒に検討します。家族自身の心が限界に近いと感じたら、介護がつらい・もう限界と感じたら──介護疲れセルフチェックとストレスのサイン、心を守るセルフケアも読んでみてください。

最期の場所がどこになっても、本人の希望を聞き、迷いながら選んだ過程そのものに意味があります。


今日からできること

在宅看取りを考え始めたら、次の3つから手をつけます。

  1. 本人に、どこで過ごしたいかを聞いてみる:答えが出なくても、話題にしたこと自体を医師や訪問看護師に伝える
  2. 主治医に、訪問診療について相談する:今の通院先で訪問診療をしているか、紹介してもらえるかを聞く
  3. 連絡先の紙をつくる:最初に電話する先が決まっていなくても、家族の連絡の順番から書き始める

看取りの時期は、医療や制度の相談とは別に、揺れる気持ちを誰かに聞いてほしくなることがあります。介護そっとねっとでは、家で親を見送った人や、在宅か入院かで迷った人の書き込みを読んだり、名前を出さずに自分の気持ちを書いたりできます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上の判断を行うものではありません。病状・治療・看取りの方針は主治医や訪問看護師に、介護サービスの利用は担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに、119番通報時の救急隊の対応はお住まいの地域の消防本部の案内にご確認ください。

参考情報(一次情報)

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