「介護は私ばかり」「兄はお金だけ出して何もしない」——親の介護が始まると、それまで表面化していなかった兄弟間の温度差が一気に見えてきます。介護そっとねっとのコミュニティにも、遠方に住む兄弟への不満や、役割分担の話し合いがこじれてしまったという投稿が寄せられます。
この記事では、なぜ兄弟間の介護分担で揉め事が起きやすいのかという構造的な理由から、実際に話し合いを始める前に整理しておきたいこと、揉めずに決めるための4つのステップ、そしてお金の話し合い方まで、家族向けにやさしく整理します。ただし、話し合いがどうしてもまとまらない場合の法的な手段についても後半で触れます。「揉めたくない」という気持ちだけでは解決しない場面も実際にはあるからです。
なぜ兄弟間の介護分担は揉めやすいのか?
「誰が介護すべきか」の優先順位は、法律で決まっていないからです。
介護というと「長男の嫁がするもの」「同居している子がするもの」という考え方が根強く残っている地域や家庭もありますが、これは法律上のルールではなく、慣習や思い込みにすぎません。
民法877条第1項では、直系血族(親・子・孫)および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務を負うと定められています。つまり、親から見て子は全員が扶養義務者であり、兄弟姉妹の間で「誰が優先か」の序列は定められていません。年齢や同居の有無、性別によって義務の重さが変わることもありません。
扶養義務には、大きく分けて2つの考え方があります。
- 生活保持義務:自分と同じ水準の生活を保障する強い義務。主に夫婦間・親から未成熟の子への義務に適用される考え方です
- 生活扶助義務:自分の生活を犠牲にしない範囲で援助する義務。親の介護における兄弟姉妹間の扶養は、基本的にこちらに位置づけられます
つまり、法的には「自分の生活を壊してまで親の介護を負担する義務」までは求められていません。この前提を兄弟全員が正しく理解していないと、「やって当然」「なぜ協力しないのか」という一方的な感情がぶつかり合い、話し合いが感情論になりやすくなります。まずは「誰か一人に義務が偏っているわけではない」という共通認識を持つことが、揉めない話し合いの土台になります。
なお、もし話し合いで解決できない場合は、民法878条・879条により、家庭裁判所に扶養の順位や程度・方法を定めてもらう調停・審判の手続きもあります。ここまで発展するケースは多くありませんが、「法的な手段が最終的には存在する」と知っておくだけでも、一方的な負担の押し付けに対して声を上げやすくなります。
話し合いを始める前に、何を整理しておくべき?
兄弟それぞれの「できること」を、感情ではなく事実で見える化しておくことです。
話し合いがこじれる典型的なパターンは、「気持ち」の話から入ってしまうことです。「なんで手伝ってくれないの」「そっちこそ何もしてないじゃない」という感情のぶつけ合いは、事実の確認が済んでいないまま始まるからこそ起こります。
話し合いの前に、兄弟それぞれが以下を紙に書き出しておくと、感情論になりにくくなります。
- 住んでいる場所と、親の家までの距離・移動時間
- 勤務形態・勤務時間(在宅勤務の可否、休みの取りやすさ)
- 自分の家族構成(配偶者の理解、子どもの年齢、自分自身の持病の有無)
- 現在の貯蓄・収入から、月々どのくらいの金額なら継続的に負担できるか
書き出す作業自体は地味ですが、「誰が何をできて、何ができないか」が可視化されると、「あの人は何もしていない」という印象論が、「あの人は遠方で頻繁に通えないが、費用は多めに負担できる」という具体的な役割分担の材料に変わります。
ここでもう一つ大切なのが、親自身の希望とお金の状況を先に確認しておくことです。親がどこでどう暮らしたいか、施設入居も選択肢に入れているか、貯蓄・年金額はどの程度あるかを、できれば本人を交えて確認しておきましょう。介護費用は、まず親自身の財産でまかなうのが原則です。この前提を飛ばして兄弟間の負担割合だけを先に議論すると、「そもそも親のお金はどうなっているのか」という疑問が後から蒸し返され、話し合いをやり直すことになりがちです。
揉めずに決める、分担の4ステップ
「状況の棚卸し→親の希望とお金の確認→役割とお金の割り振り→公的な窓口を間に入れる」の順で進めると、感情論に流れにくくなります。
ステップ1:状況を紙に書き出す
前章で触れた「住んでいる場所・勤務形態・家族構成・健康状態」を、兄弟全員がそれぞれ紙やメッセージアプリで共有します。声だけの会話だと「言った・言わない」のすれ違いが起きやすいため、文字に残すことをおすすめします。
ステップ2:親の希望とお金を確認する
親本人の暮らし方の希望、貯蓄・年金額の目安を、できれば本人を交えて確認します。話しにくいテーマですが、「今後の準備のために聞いておきたい」という前置きをすると切り出しやすくなります。たとえば「お母さんがこの先どんなふうに暮らしたいか、みんなで考えたいから聞かせてほしい」というように、詮索ではなく本人の希望を尊重する姿勢を先に伝えると、お金の話にも自然につなげやすくなります。金額そのものより、「大まかにどのくらいの蓄えがあるか」「年金だけで足りそうか」という大枠がつかめれば十分です。
ステップ3:役割とお金を具体的に割り振る
「通院の付き添い」「行政手続きや書類対応」「日常の見守り連絡」といった役割と、「月々の費用のうち誰がいくら負担するか」を、それぞれ別の軸として割り振ります。役割分担と費用分担は必ずしも一致させる必要はありません。近くに住んで頻繁に通う人は身体的な負担が大きい分、費用は少なめに、遠方で通えない人はその分費用を多めに、といった調整も現実的な選択肢です。大切なのは「できる範囲」で分けることで、同居している家族や、たまたま最初に動き始めた人に全てを背負わせないことです。
ステップ4:公的な窓口も間に入れる
身内だけで話し合うと、過去の感情的なわだかまりが顔を出してしまうことがあります。地域包括支援センターやケアマネジャーに同席を依頼すると、第三者の視点が入り、事実ベースの話し合いに戻りやすくなります。ケアマネジャーとの付き合い方や、相性が合わないと感じたときの対処法は、ケアマネジャーの選び方と変更方法──「合わないかも」と思ったら見る5つのサインで詳しく解説しています。
揉めてしまった実例と、そこから見える回避策
多くの失敗パターンには共通点があり、あらかじめ知っておくだけで回避しやすくなります。
介護そっとねっとのコミュニティや各種の相談窓口で語られる「揉めた経験」には、いくつかの典型パターンがあります。
- 「最初に動いた人」が、そのまま主担当に固定されてしまう:親が倒れた直後、たまたま近くに住んでいた・たまたま仕事の融通が利いた兄弟が対応を始めると、他の兄弟が「もう任せておけば大丈夫」と考えてしまい、役割分担の話し合いが永久に先送りになるケースです。回避策は、対応が落ち着いた段階(多くは要介護認定が出た頃)で、一度立ち止まって役割を明文化する時間を作ることです
- お金の話を切り出すタイミングを逃し続ける:「お金の話をするのは薄情に思われるのでは」という遠慮から誰も切り出せず、気づけば一人が数十万円単位を立て替えていたというケースも珍しくありません。回避策は、介護が始まった初期段階、まだ関係がこじれていないうちに「今後のために、費用の話も早めにしておきたい」と切り出しておくことです
- 「手伝えない」ことへの罪悪感が、かえって連絡を遠ざける:遠方に住む兄弟が「何もできない自分」への引け目から連絡を減らしてしまい、それが同居家族には「無関心」に見えてしまう、というすれ違いです。回避策は、手伝えない側から先に「今はこれくらいならできる」と、できる範囲を具体的に申し出ることです
- 話し合いの場を一切設けず、SNSやメッセージの文面だけで判断し合う:短い文章のやり取りだけでは温度感が伝わらず、誤解が誤解を呼びます。回避策は、たとえ短時間でもビデオ通話や対面で、表情の見える形で一度は話す機会を作ることです
これらに共通するのは、「悪意があって揉めているわけではない」という点です。多くは、遠慮・言い出しにくさ・タイミングのズレが積み重なった結果にすぎません。だからこそ、感情がこじれる前の早い段階で、前章の4ステップを一度回してみることに意味があります。
お金の話し合い、何を確認すればいい?
介護費用は原則として親の財産でまかない、不足分をどう分担するかを兄弟間で話し合うのが基本の流れです。
費用の話し合いで押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 費用の総額と内訳を、家計簿のように共有する:介護保険サービスの自己負担分、おむつ代などの実費、通院の交通費まで含めて、月にどのくらいかかっているかを定期的に共有します。内訳が見えないまま「もっと出して」と言われると、不信感につながります。在宅介護の場合、介護保険サービスの自己負担(1〜3割)に加えて、おむつ代・介護食・移動の交通費といった保険適用外の実費が月に数千円〜数万円規模で積み上がることも珍しくありません。この実費部分こそ内訳が見えにくく、揉め事の火種になりやすい部分です
- 月々の負担額を、無理のない範囲で決める:一時的な感情で高い金額を約束すると、後で継続できなくなり、かえってトラブルの種になります。長期化することを前提に、継続可能な金額で合意しましょう。介護は数ヶ月で終わるとは限らず、数年単位で続くこともあるため、「今だけ頑張れる金額」ではなく「この先ずっと続けられる金額」で線を引くことが長続きのコツです
- 介護保険の負担軽減制度も活用する:高額介護サービス費や負担限度額認定証など、費用そのものを抑える公的な制度もあります。負担額の話し合いの前に、こうした制度を使い切れているかを確認しておくと、兄弟間で分担すべき金額自体を減らせます。介護保険の基本的なしくみは親の介護が始まったら──はじめての介護保険、申請から費用までやさしく解説で解説しています。高額介護サービス費の上限額や申請方法については高額介護サービス費とは?──払い戻しの上限額・申請方法と令和8年8月からの基準額改定をやさしく解説で詳しく整理しています
なお、先述のとおり、扶養義務のある兄弟姉妹が複数いる場合、法律上は誰か一人に費用負担を強制する順位は決まっていません。「介護をしない兄弟にも費用だけは分担してほしい」という要望自体は法的に正当なものです。ただし、それを一方的に通告するのではなく、「事実の共有→役割とお金の割り振り」というステップを踏んだ上で伝えたほうが、関係を壊さずに合意にたどり着きやすくなります。
何もしない兄弟がいる場合、どう対応すればいい?
まず「本当に何もできないのか」を確認し、それでも動かない場合は第三者を介した話し合いに切り替えます。
「何もしない」ように見えても、実際には勤務先の状況や家庭の事情で身動きが取れないケースは少なくありません。感情的に責める前に、ステップ1の「状況の棚卸し」を改めて依頼し、事実として何ができないのかを確認しましょう。
そのうえで、経済的な負担すらも拒否する場合は、地域包括支援センターに相談し、話し合いの場を設けてもらうことが現実的な一手です。それでも解決しない場合は、家庭裁判所の調停・審判という手段が法律上は存在します。ただし、家族関係が完全に壊れてしまうリスクも伴うため、まずは公的な窓口を間に入れた話し合いを尽くすことをおすすめします。
一人っ子で頼れる兄弟がそもそもいない場合や、兄弟はいても全員が遠方に住んでいる場合は、悩みの性質が少し異なります。そうしたケースの備えと使えるサービスは一人っ子・遠距離介護、親をどう支える?──きょうだいがいない・離れて暮らす家族のための備えと使えるサービスにまとめていますので、あわせてご覧ください。
話し合いの前に、家族の意思確認もしておきたい
介護の役割分担と合わせて、実は「もしものときにどうしたいか」という本人の意思確認も、早いうちに済ませておくと後々の判断がぐっと楽になります。延命治療の希望や、最期を迎えたい場所についての話し合いは、いざというときに慌てて決めるにはあまりに重いテーマだからです。人生会議(ACP)の始め方は親の「もしも」を一緒に考える──家族のための人生会議(ACP)のはじめ方で解説しています。介護の分担会議と同じタイミングで、少しずつ話題に出してみるのもよいでしょう。
まとめ:この記事で持ち帰れること
この記事を読むことで、次のことが判断できるようになります。
- 兄弟間の介護分担に法律上の優先順位は無いこと、そして扶養義務の範囲(生活を壊してまでの負担は求められないこと)
- 感情論を避けるための「状況の棚卸し→親の希望とお金の確認→役割とお金の割り振り→公的な窓口を間に入れる」という話し合いの型
- 費用分担で確認すべき3つのポイントと、何もしない兄弟がいる場合の現実的な対応段階
今日からできる小さな一歩として、まずはご自身の「住んでいる場所・勤務形態・今の家族の状況」を、メモ帳アプリでもいいので3行だけ書き出してみてください。それだけで、次に兄弟に連絡するときの話しやすさが変わってきます。
一人で抱え込まず、同じ立場の人と気持ちを共有したいときは、介護そっとねっとのコミュニティもぜひご活用ください。兄弟間の悩みを含め、日々の介護の気持ちを吐き出せる場を用意しています。
よくある質問
Q. 介護をしない兄弟に、費用だけでも請求できますか?
A. 可能です。民法877条により兄弟姉妹には互いに扶養する義務があり、実際に介護をしていなくても費用面での分担を求めることは法的に正当な要求です。ただし、まずは状況を共有したうえで話し合いを尽くすことをおすすめします。
Q. 「長男(長女)だから介護すべき」という考え方は正しいですか?
A. 法律上の根拠はありません。民法上、扶養義務を負う優先順位は兄弟姉妹の間で定められておらず、年齢や続柄によって義務の重さが変わることもありません。
Q. 話し合いがまとまらない場合、最終的にどうすればいいですか?
A. 民法878条・879条により、家庭裁判所に扶養の順位や方法を定めてもらう調停・審判の手続きがあります。ただし関係悪化のリスクもあるため、まずは地域包括支援センターなど第三者を交えた話し合いを尽くすのが現実的です。
Q. 費用の分担割合は、収入に応じて変えるべきですか?
A. 法律で決まった割合はなく、兄弟間の話し合いで決めます。役割(通院同行・書類対応など)と費用負担を別の軸として考え、身体的な負担が大きい人の費用負担を軽くするなど、実情に応じた調整が一般的です。
Q. 遠方に住んでいて何も手伝えない場合、どうすればいいですか?
A. 身体的な負担が難しい分、費用面での負担を多めにするなど、できる形での貢献を話し合いで提案してみましょう。遠距離介護特有の悩みや使えるサービスは、関連記事もあわせてご確認ください。
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