在宅介護を始める前に知っておきたいこと
在宅介護を始める前に知っておきたいこと
「退院後は自宅で介護したい」「施設にはまだ入れたくない」——そう考えるご家族は多いと思います。在宅介護は、ご本人が住み慣れた環境で生活を続けられるという大きなメリットがある一方で、準備が不十分だと介護者の負担が一気に重くなってしまうことも確かです。
ケアマネージャーとして多くのご家族と関わってきた経験から言えることは、「事前の準備と情報収集が、在宅介護の成否を大きく左右する」ということです。この記事では、在宅介護を始める前にやっておくべきことを、チェックリスト形式でお伝えします。
在宅介護を始める前の準備チェックリスト
医療・介護の情報収集
- [ ] 主治医から現在の状態と今後の見通しを聞いた
- [ ] 介護保険の要介護認定を申請した(または申請の手続きを把握している)
- [ ] 地域包括支援センターまたはケアマネージャーに相談した
- [ ] 利用できる介護保険サービスの種類を把握している
- [ ] 訪問看護や往診が必要かどうかを確認した
住環境の確認
- [ ] 自宅の段差・転倒リスクを確認した
- [ ] 必要な住宅改修(手すり設置・段差解消など)を検討した
- [ ] 介護用ベッドや車いすの置き場所を確保した
- [ ] トイレや浴室の使いやすさを確認した
- [ ] 緊急時の脱出経路と安全を確認した
家族・サポート体制の確認
- [ ] 主に介護を担う人(主介護者)を決めた
- [ ] 家族全員で介護の方針について話し合った
- [ ] 家族間で役割分担を決めた
- [ ] 近隣の方や友人など、いざというときに助けを求められる人がいる
- [ ] 仕事をしている場合、介護休業制度について確認した
経済的な準備
- [ ] 介護にかかる費用の概算を把握している
- [ ] 介護保険の自己負担割合を確認した(1割・2割・3割)
- [ ] 高額介護サービス費の制度を知っている
- [ ] 介護に使える貯蓄・資産を把握している
住環境の整え方
在宅介護では、自宅の環境が安全で使いやすいものであることがとても重要です。転倒は高齢者の骨折・寝たきりの大きな原因となります。介護が始まる前に、住環境を整えておきましょう。
玄関・廊下・階段
玄関では、段差の解消が最優先です。玄関の上がり框(かまち)が高い場合は、段差を小さくするスロープや踏み台の設置を検討します。靴の脱ぎ履きをするときに手をつける場所(手すり)があると安心です。靴べらの柄を長くしたり、座って履ける椅子を置いたりするだけで格段に使いやすくなります。
廊下は、物を置かずにスペースを確保しましょう。車いすが通る場合は、幅が75センチ以上必要です(曲がり角では90センチ以上)。廊下に手すりを設置すると、歩行が不安定な方でも安心して移動できます。
階段は、転倒の危険が特に高い場所です。両側に手すりを設置するのが理想的ですが、少なくとも利き手側(下りるときに手すりに頼れる側)に設置しましょう。
居室
介護用ベッド(特殊寝台)の導入を検討しましょう。背もたれの角度や高さを調整できる介護用ベッドは、起き上がりや移動を格段に楽にします。要介護1以上であれば、介護保険でのレンタルが可能です。
ベッドの周りには転落防止のためのサイドレールを設置します。また、ベッドから立ち上がる動作を補助する手すりも有効です。
ベッド横にはポータブルトイレを置く場合もあります。夜間のトイレ移動が大変な場合は、転倒リスクを下げるために有効です。
トイレ
- 便座の高さが合っているか確認する(高いほうが立ち座りが楽)
- 便座の横に手すりを設置する
- 床の滑りを防止するマットを敷く
- 洋式トイレへの変更が必要な場合は住宅改修を検討する
浴室・洗面所
浴室は転倒のリスクが最も高い場所の一つです。
- 浴槽の出入りを補助する手すりを設置する
- 浴槽内・浴室床に滑り止めマットを敷く
- シャワーチェア(入浴用椅子)を活用する
- 介護用入浴補助用具(浴槽手すり、バスボードなど)の活用を検討する
住宅改修(手すり設置・段差解消など)は、介護保険制度を利用すると1住宅あたり20万円を上限として工事費の7割から9割が支給されます。ケアマネージャーを通じて手続きを行いましょう。
介護用品の選び方
介護用品は種類が豊富で、どれを選べばよいか迷う方も多いと思います。購入前に必ず確認しておくべきポイントをお伝えします。
まずはレンタルを検討する
福祉用具の多くは介護保険でレンタルできます。購入前にレンタルで試用することで、身体の状態に合っているかどうかを確認できます。状態が変化した際にも対応しやすいというメリットがあります。
介護保険でレンタルできる主な福祉用具
- 車いす・付属品
- 特殊寝台(介護用ベッド)・付属品
- 床ずれ予防用具(マットレスなど)
- 体位変換器
- 手すり(工事を伴わないもの)
- スロープ
- 歩行器・歩行補助つえ
- 認知症老人徘徊感知機器
- 移動用リフト
購入が必要な用品
入浴補助用具(シャワーチェア、バスボードなど)や腰掛便座など、衛生上レンタルになじまない用品は購入となります。介護保険の「特定福祉用具購入費」として、年間10万円を上限として費用の7割から9割が支給されます。
選び方のポイント
車いすは、座面の幅と高さが身体に合っているかが最重要です。合わない車いすでは、長時間座ると褥瘡(じょくそう)が生じたり、操作が難しくなったりします。福祉用具専門相談員に相談し、身体に合ったものを選びましょう。
介護用ベッドは、高さが調整できるものが基本です。介護者が腰に負担なく介護できる高さと、ご本人が足を床につけて立ち上がれる高さは異なります。両方の視点から高さを調整できるものが使いやすいです。
おむつ・パッドの選び方は、排泄状況によって適切なタイプが変わります。日中は活動量があるため薄型タイプ、夜間は吸収量の多いタイプ、という使い分けが一般的です。担当のケアマネージャーや訪問看護師に相談するのがおすすめです。
家族間の役割分担
在宅介護がうまくいかなくなる大きな原因の一つが、「一人に介護の負担が集中してしまうこと」です。特に、同居している家族(多くの場合は配偶者や嫁・娘)が一人で全てを担ってしまう状況は、介護者の心身の健康を脅かし、介護の質の低下にもつながります。
役割分担の考え方
介護の役割は「身体的な介護作業」だけではありません。以下のような役割を、家族それぞれの状況に応じて分担することが大切です。
直接介護(毎日の食事介助・入浴介助・排泄介助など)
- 同居している家族が中心になることが多い
- 訪問介護サービスを活用して負担を分散する
医療・行政手続き(通院付き添い・薬の管理・介護保険の書類手続きなど)
- 時間の融通がつきやすい家族が担当する
- ケアマネージャーに代行できるものは依頼する
経済的サポート(介護費用の負担・住宅改修費用など)
- 遠方で直接介護が難しい家族が担当する場合もある
精神的サポート(定期的な連絡・主介護者の話を聞く・一時的に介護を代わるなど)
- 遠方の家族でも十分に貢献できる役割
家族会議を開こう
介護が始まったら、できるだけ早い段階で家族全員が集まって話し合いましょう。集まれない場合はビデオ通話でも構いません。
家族会議で決めておくべきこと
- 本人の意向(どこで介護を受けたいか、延命治療についてどう考えるかなど)
- 介護の方針(在宅介護をいつまで続けるか、施設入所の基準など)
- 役割分担(誰が何を担当するか)
- 費用の分担(介護費用をどう賄うか)
- 緊急時の連絡体制
「言いにくいテーマ」ほど、早めに話し合っておくことが大切です。
主介護者を支える仕組みをつくる
毎日介護に関わる主介護者が「助けを求めてよい」という状況をつくることが、家族全体にとって重要です。
- 定期的にショートステイ(短期入所)を利用して、主介護者に休みを確保する
- デイサービスの利用日は、主介護者が自分の用事を済ませる時間にする
- 「なんでも一人でやらなければならない」という思い込みを手放す
仕事との両立のために
仕事をしながら介護をする「ダブルケア」は、精神的・身体的・経済的に大きな負担となります。しかし、介護を理由に仕事を辞めることは、経済的な問題だけでなく、社会とのつながりを失うことにもなりかねません。
活用できる制度(要確認)
- 介護休業制度: 対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得可能(介護保険法ではなく育児・介護休業法に基づく)
- 介護休暇: 年間5日(対象家族が2人以上の場合は10日)の取得が可能
- 介護のための所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限
これらの制度の詳細や会社の実際の運用については、勤務先の人事部門に確認してください。
まとめ
在宅介護は、事前の準備と情報収集が成功のカギです。「いきなり始めなければならなかった」と後悔しないために、今のうちから少しずつ準備を始めておくことをおすすめします。
わからないことや不安なことがあれば、一人で悩まずにケアマネージャーや地域包括支援センターに相談しましょう。専門家は、皆さんのご状況に合ったアドバイスを提供するために存在しています。在宅介護は、チームで取り組むものです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的なサービス利用や費用については、担当ケアマネージャーにご相談ください。
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介護そっとねっと編集部
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